キングコング西野のスピーチについての一考
今Twitterを賑わせている話題がこちら。
近畿大学でのキングコング西野のスピーチすごくグッときた。 pic.twitter.com/dAF0TCtk8Z
— はやと (@0407_onepeace) 2019年4月20日
すごいRT数である。この人のやることの大体が、Twitterで何か言いたい人たちの目に留まって賛否両論合戦となるが、今回のもしっかり例に漏れなかったようだ。
Twitterで回ってくる前から、なぜかYouTubeのおすすめに上がってきていたので、この動画の存在は知っていた。しかし、サムネイルが胡散臭かったので、視聴することはなかった。
サムネイルのスクリーンショットを見てほしい。いや、「伝説のスピーチ」ってまだ伝説になるかも分からないのによく書けるな。これが近畿大学の公式として上がっているのが非常に胡散臭く感じた。最初は転載かと思った。
話題になっているのはこの一節である。
【近畿大学卒業式】キンコン西野 伝説のスピーチ全文③ | 西野亮廣ブログ Powered by Ameba
一見すごく深い含蓄がありそうな言葉で、YouTubeのコメントやTwitterでも、「感動した」「いいこと言うなあ」という感想が多い一方で、「マルチの語り口」「意味が分からない」などという感想も回ってきた。僕のタイムラインは後者の方が多く観測された。
「時計の短針と長針は1時間に1回は重なりあうが、11時台だけは重ならない。人生にはそんな11時台のような報われない時があるが、必ず重なる時が来る。みんな、頑張って」
— ナスカの痴情ェ (@synfunk) 2019年4月23日
何を言っているのかさっぱり分からないだろう。俺だって分からない。何より、これに感動してる人間がいるのが一番分からない。
さて、この「時計理論」を見て思い出したものがある。それは、ゴルゴ松本の「魂の授業」である。これは、少年院の少年たちを相手に、ゴルゴ松本が漢字についての熱い講義をするというものだ。
www.youtube.com 『口からプラスとマイナスの言葉を「吐」くな、プラスのことだけを言えば夢は「叶」う。』
確かにめちゃくちゃうまいことを言えている感はある。動画を観ていると、語りの上手さもあり、なんだか本当に夢が叶いそうな気分になってきてしまうまである。
「時計理論」とこの漢字の話、どちらも論理構造がよく似ている。
まず、「言われてみると確かにそうだな」と思わせるような事実を紹介する。
次に、「成功の秘訣」や「普遍的な事実」がそこに隠れていると主張する。
論理構造は以上である。昔から、このようなたとえ話はすぐ名言になる。
~人という字は人と人とが支えあってできている~
~矢は3本まとめてでは折れない。お前たちも3人支えあって生きなさい~
このような、ただの喩え話にいちいち「意味が分からない」だの「騙されるな」だの言うのはナンセンスじゃないかと思う。まあ、かといって、感動するのもバカらしい。Twitterでこの話題に触れている人が多いのは、感動した側と感動しない側がきれいに二分されているからだろう。
2つを分けるものは、情報を鵜呑みにしてしまうかどうか、だったり、常に主張に対して批判的かどうか、というような姿勢だろう。そして、批判的な、「感動しないサイド」の方が声がでかいため、この話題が賛否両論あるように見えているのだ。
面白いのは、このような批判が、ゴルゴ松本の「魂の授業」にはあまりないことだ。
これらとキングコング西野の違いは、おそらく話の対象者にあるのだと思う。しょせん、喩え話は、子供だましなのである。ゴルゴ松本も、金八先生も、毛利元就も、子供に向けて話をしているのである。
一方、キングコング西野は、社会に出る大学4年生(=大人)に向けて、同等のレベルの喩え話をしている。それが、Twitterの「感動しないサイド」にとって(無意識に)引っかかっていて、まるで「子供だましの話を大人の自分たちにされた」かのような反応が出てきているのではないかと思う。
それでも、喩え話というのは一見すると本当に含蓄がありそうで、理性で分かっていても感動を覚えてしまうのは、人の心のバグを突かれているみたいでじつに面白い。